皆さんこんにちは。
新型コロナウイルスの影響でかみね動物園も休園中ですが、どのようにおすごしでしょうか。
おそらく外出自粛でお家にいる時間が増えていると思います。
そんな時はこの飼育ブログを読んで少しでも時間潰しをしていただけたらと思います!!
では、始めていきたいと思います。
唐突ですが、『屠体給餌(とたいきゅうじ)』という言葉をご存知でしょうか?
2月9日に行った「肉の日」イベントにご参加された方には少しだけお話をさせていただいきましたが、今回はその『屠体給餌(とたいきゅうじ)』に関するお話です。
内容にショッキングな部分もありますので、苦手な方はご注意ください。
また、少し難しい話にも触れますので良ければ最後までお付き合いください。
現在日本では野生のシカやイノシシによる農作物への被害、車と接触する交通事故、人里に降りてきた際に人が襲われるなど多くの被害が起きています。
その中で有害鳥獣として多くのシカ・イノシシは駆除されています。
動物園でこうした駆除された命を無駄にしないよう、肉食動物のごはんとして給餌する取り組みを『屠体給餌』と言います。
では次に、屠体給餌の取り組みが動物園の動物、環境にとってどのような意義があるのか紹介していこうと思います。
動物園で飼育している肉食動物ライオン・トラなどが普段食べているごはんはこのようなものです。
スーパーなどで私たちが目にする肉と同じように見えませんか。
毛皮は剥いでおり、骨や蹄は取り除かれています。
では次に野生で食べている肉はどのようなものでしょうか。
野生ではもちろんですが、決まった時間に飼育員がエサを運んでくることはありません。
写真のように動物自らが狩りを行い、獲物を仕留め、牙で毛皮を剥ぎ、骨から肉をちぎって食べます。
このような一連の行動を『採食行動』と言います。
野生動物に比べ、飼育下の動物が食べる肉は大抵処理・加工されており、先ほど述べた採食行動が短いため、食べることに費やす時間が総じて短く、動物たちにとっては退屈な時間が増えてしまいます。
屠体給餌では頭部や内臓といった一部は処理され、低温殺菌により加工されているものの、毛皮・骨・蹄などは残っており、飼育下の環境においても採食時間を延ばし、退屈な時間を減少させ多様な行動を発現する一つの方法として期待をされています。
実際に給餌したイノシシの屠体肉10kg
このように飼育下の限られた環境において、野生本来の行動を発現する具体的な方策を環境エンリッチメントと言います。
では実際に動物園行っている環境エンリッチメントを少し紹介したいと思います。
環境エンリッチメントの例
1:消防ホースフィーダー
このような消防ホースで出来た蛇腹の束を見たことありませんか?
これは蛇腹の部分に野菜や果物を隠して、動物自身に探してもらう仕組みになっています。
普通にばらまくより、どこにエサが隠してあるか時間が時間をかけて探してもらうことができます。
2:船盛1号(かみね動物園ではこう呼んでいます。)
かみね動物園ではチンパンジーの展示場内にあります。
枝などを使って指の届かないところにあるエサを出口まで運んで落とす仕組みになっています。
チンパンジーやゴリラ、オランウータンといった道具を使うことのできる類人猿で使われることが多いです。
3:箱型フィーダー(ボール型フィーダー)
(ボール型はイベントの時に作ったものでハロウィン仕様になっております。)
箱やボールの中にエサを隠して、振ったり、揺らしたりして中のエサを落として手に入られる仕組みになっています。
紹介したすべてのフィーダーに共通することが、採食時間を延ばすこと、動物自らが考え、行動を多様化させることです。
簡単にいえば暇な時間を短くして、なるべく時間をかけて楽しんでエサを食べてもらうことを目的としています。
獣害問題は新聞・テレビなどでたびたび目や耳にすることだと思います。
シカやイノシシなどが畑で栽培している作物を食べてしまい、農家の皆さんが困っていると聞いたことはありませんか?
害獣問題でやむなく駆除されたシカやイノシシの肉はその後どうなると思いますか?
地域によっては道の駅などでシカ肉・イノシシ肉として売られているところもあるかと思います。
ですが、食用の肉として売られているものはごくわずかで、9割近くは廃棄されてしまい、我々人間の口に届くのは約1割といわれています。
駆除された命をただ廃棄するのではなく、少しでも無駄にしないことも屠体給餌の目的の一つだとされています。
日本では獣害問題が深刻化しており、平成30年度日本では野生鳥獣による農作物被害額がおよそ158億円に上るといわれています。
シカやイノシシの被害は日立市においては意外と身近に感じます。
茨城県の鳥獣による農業被害額は平成30年度では4.7億円とされ、なかでもイノシシによる被害額は1億円とされています。
動物園近くの鞍掛山にてイノシシが掘り起こした穴が見られました。
写真のような光景を目撃すると獣害問題をとても身近に感じます。
図1
(図1 イノシシが掘り起こした形跡。)
図2
(図2イノシシが地面を掘り起こしてできた穴。)
動物園は生涯教育の場でもあります。
動物園をきっかけに、野生動物の現状や、その背景にある環境に興味をもってもらえるようにガイドや掲示物、SNSを通じて情報を発信しています。
昨今注目されている食育ということにおいても、こういった取り組みを通して人間と動物の食べている食べ物の違い、動物のこと、環境のことを伝えられるのだと思います。
人間を含む動物は、必ず他者の命、動物・植物を摂取しなければ生きてはいけません。
普段スーパーで購入し、口にする肉が、どのようにして処理・加工されているかを考える機会は少ないと思います。
肉食動物が屠体から肉を引き裂く姿は、学校の授業やテレビ等、日常生活ではなかなか見られず、伝えられないことだと思われます。
残酷なことではありますが、屠体給餌を通じて普段我々が口にする肉や魚、野菜について考えるきっかけになるのではないでしょうか。
以上3つの屠体給餌の意義について述べさせてもらいました。
屠体給餌のことを少しはご理解いただけたでしょうか。
動物園では限られた環境の中で動物たちの生活をより良くするために様々な工夫をしています。
今回の屠体給餌もその一つであり、動物たちにとって普段とは異なった採食や行動の発現につながったのではないかと考えられます。
かみね動物園には「楽しく入って、学んで出られる」といったモットーがあります。
2月9日に行った肉の日イベント、屠体給餌に限らず、動物園にお越しいただいた方に楽しんでもらい、その中で何か学びにつながる取り組みをこれからもしていきたいと思います。
(2/9に行った屠体給餌にてヒグマのエリコが屠体肉を運ぶ様子)
画像引用
農林水産省 野生鳥獣による農作物被害状況について (平成30年度)
Wikipedia ライオン https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ライオン
クマのすみか担当 山下