さて、いよいよトリインフルエンザのラストの回です。
その1
http://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/nakamoto/p057538.html
その2
http://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/nakamoto/p058805.html
初回が「トリインフルエンザとは」2回目が「トリインフルエンザと動物園」ときまして、ラストは「トリインフルエンザと私たち」です!
トリインフルエンザも全国的に終息に向かい、当園でも5月9日よりめでたく解除となりました。
最後にウイルスの突然変異と鳥の渡りのお話をして結びにしたいと思います。
また、本筋とはちょっと関係ありませんが、せっかく鳥の話をしているので園内の鳥たちを写真で紹介します。
<ウミウ:日立市の鳥です> <フンボルトペンギン:鳥総選挙で人気No.1に>
再三お伝えしているように、トリインフルエンザ(以降トリインフル)は基本的には人に感染する可能性は低いです。この「基本的」というのがポイントで、裏を返せば例外的に感染するとも言えます。例えば、感染した鳥を生で食べたりして、ウイルスを大量に取り込むなどすると感染の可能性があります。
地球上の生物は太古から、進化や変異を遂げて、その時々の環境に適応できた種が生き残り、そうでない種は絶えるという歴史を繰り返してきました。ウイルスも例外ではありません。その過程において突然変異(ウイルスでは「遺伝子再集合」と呼ぶそうな。)があります。これは偶発的に遺伝子に突然変化が起こることで、その変化が生存に不利に働くこともあれば、有利に働くこともあります。
<ヨウム:インコの仲間でとても賢いです> <ホンドフクロウ:夜にホーホー鳴いています>
トリインフルは人の体内に入っても感染の可能性は低いです。ただ、鳥の体内にいるうちに突然変異が起こって人に感染できるようになることがあります。さらに、人の体内でも突然変異が起こり人から人へ感染できるようになる可能性もあります。人間はこれまでかかった病気に対しては抵抗力がありますが、未知の病原体が体内に侵入してしまうと重大な症状が出てしまうことがあります。また、予防や治療も未知なので被害が拡大してしまいます。一昔前に流行った新型インフルエンザがこれです。
<アオバネワライカワセミ:鳴き声が笑い声に聞こえます>
また、ウイルスは必ずしも特定の動物にのみ感染するとは限りません。豚はトリインフルにもヒトインフルにも感染するので、豚の体内で突然変異が起こって、鳥にも人にも豚にも感染するスーパーウイルスが誕生する可能性も指摘されています。
まとめると、トリインフルは人に対して絶対に危険がないとはいえません。また、鳥にインフルエンザが蔓延するということは、同時に人とウイルスとの接触する機会が増えて、人に感染するリスクが高まるということが言えます。いろんな偶然が重なって人間社会に広がっていくと大変な被害になる危険性があるので、予防や発生した後の処理が厳重になっているのです。
<インドクジャクとニワトリ:羽を広げて男らしさをアピールします>
最後に「渡り」のお話しです。
空を飛ぶことができる鳥に国境はありません。鳥の中には繁殖地やエサを求めて長距離を移動する種類がいます。その範囲は日本国内はもちろん、海を越えて国と国とを移動する種もいます。夏と冬で見かける鳥の種類が違うのはこのためです。ちなみに長距離を移動する種を「渡り鳥」、一箇所にとどまる種を「留鳥」といいます。
今冬日本で発生したトリインフルの型と韓国で発生した型が同じであったことから、ウイルスが鳥と一緒に行き来していたといえます。トリインフルについての法律や対策などはその国々によって違います。なので、国内でどんなに鉄壁なガードをしていてもどうしても防ぎきれないものなのです。
<タンチョウ:日本を代表する鳥です!> <チリーフラミンゴ:集団で行動します!>
これまで、3回にわたって長々とお話してきましたが、結局何が言いたかったといいますと「病気を正しく知って、上手に付き合っていこう」ということです。ウイルスは自然界に当たり前に存在するもので、彼らも私たちと同じ地球の一員です。だから、人間に害があるからといってウイルスを全て滅ぼしてしまえば、地球の生物はバランスを失い、もしかすると人間を含めた多くの生物が絶滅してしまうかもしれません。だからといって何もせずに、ウイルスで自分たちが病気になるのも困りものです。獣医学や医学の世界で「One Health (ワンヘルス)」という考えがあります。これはざっくり説明すると「人間と動物生態系がどちらも健康であってこそ、地球が健康だよね」という考えです。
<ニジキジ:虹のように美しい羽根を持つ鳥> <ニホンキジ:日本の国鳥です!>
<ホロホロチョウ:放し飼いになっています> <ノスリ:小動物を食べる猛禽類>
今回のトリインフルエンザ流行では、園内の鳥の展示場に防鳥ネットを張りました。これは園内の鳥をインフルエンザから守ることで、皆様の健康を守るというまさにワンヘルスの考え方です。今回はまれに見る規模でインフルエンザが拡大したために、防鳥ネットで見づらくなったり、おやつタイムが中止になったりと皆様には色々とご不便をおかけしました。おそらくこの先もこういった事態は当たり前に起こると思います。そのようなときに、「怖いから動物園にいくのは止めよう」とか「おやつがあげられなくてつまらない」「鳥が見づらくて嫌だ」ではなく、「病気の予防だから仕方ないよね」と思っていただけると嬉しいです。一人ひとりのちょっとした心がけや行動で、世界は良くも悪くも変わります。そんなことを考えるきっかけを動物園が作れるといいなと思いつつこのシリーズの幕を閉じようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
あと2ヶ月前倒しで書いていればタイムリーだったのにと反省している 中本