夏から秋にかけて動物園に来られた方はクロサイ舎の前で彼を見かけませんでしたか?
<暑い日も寒い日も風の強い日も一日立っていました>
サイを1日中見つめる青年。彼は一日サイの行動を観察しその記録を付けています。
その理由はこちらの青い板にあります。
この板、粘着シートになっていてあらゆる昆虫がくっついています。
実は毎年夏から秋にかけてクロサイにたかるサシバエとその数、そしてそれに伴うクロサイの行動変化を彼は調べていたのです。
家畜や多くの動物園動物で担当者が頭を悩ませるサシバエ問題。
動物の体についてその鋭い口器で皮膚を刺し血を吸います。
私も何度か吸われて痛痒い思いをしています。
主に動物の糞から発生し、血を吸って生きる彼らの生態はミステリアスで魅力的なのですが、動物からすると痛み・痒みを伴いストレスの要因となるので飼育担当者としてはなんとかしたいところ。
クロサイの場合泥浴びをして皮膚をコーティングし、サシバエや寄生虫類を防ぎますがそれだけだと防ぎきれず、また虫除けを体に塗っても今ひとつ効果を感じられず。そもそもサイ自身はどれくらいサシバエを迷惑がっているのか、サシバエによる行動への影響はどれくらいあるのか・・・。
そんな話を茨城大学さんにしたところ興味を持っていただきこの度冒頭の彼が卒業論文のテーマにこの問題を扱ってくれました。
まずはサシバエが獣舎のどの辺りで多いのか、季節ごとに数が違うのか、それに伴いクロサイの行動はどのように変化するのか、寝室内での行動は?駆虫薬を使ったら?サシバエは体のどの部分によくつく?
あらゆる方面からアプローチして実際サシバエがクロサイに及ぼしている影響について今回の研究では調査してくれています。
<部屋上部に暗視カメラを設置> <これで夜間の行動も見られます>
夜間観察は寝室内にビデオを取り付けて行いました。
また、駆虫薬を体に塗布してサシバエを体につきにくくした状態での行動観察も行いました。飼育員が塗布している間サイたちははじっとしてくれています。
動物園がもつ役割の一つに「調査・研究」というものがあります。
(他の役割についてはこちらをご覧ください)www.city.hitachi.lg.jp/zoo/001/p046053.html(新しいウインドウが開きます)
動物や動物園に関わることを研究しそれらを希少動物の保全や飼育技術にいかしていくことが主な目的です。
今回行なったクロサイの調査は大学との連携によってできました。
このように他機関と協力しながらその役割を果たしていくことは動物園にとっても大学にとっても大きな意義であり「研究」の可能性を広げることが出来たのではないかと考えています。
今までも学生さんが動物を研究テーマに取り上げてくれたことはありましたが、今回のように連絡を取り合いながら調査を進めていったことは私は初めてであり、今後もこのような連携を続けていきたいと思いました。
彼の卒業論文はまだ完成していないようですが、できあがったものを見て今後の飼育技術向上に役立てていきます。そうすれば来園者の皆様にもより面白い動物園をお見せすることができるでしょう。
ありがとう、本郷君!!
(飼育員 卒業研究は「糞虫」いのうえ)