毎日行っている「猛獣のごはんタイム」は昨年から始まりました。
色んなお客さんとお話ができて楽しいです。
最近はトラについてお話することが多いのですがたまに言われるのが
「トラは1頭で寂しいね」
確かにライオンはこれだけいますからね。
ほぼ同じ広さの展示場に1頭でいるトラはポツンとして寂しそうに見えるかもしれません。
ただ、「1頭しかいないから寂しそう」というのは飼育員から一言申し上げたいのでございます。
そもそも野生に生息しているトラは単独生活をしているものがほとんどです。
森の中におよそ10km四方の縄張りを持ちそれぞれその中で暮らしています。
行動するのはいつも1頭、あるいは母と仔の親子で行動することがほとんどです。
ライオンのように群れで休憩したり狩りを行ったりという事はまずありません。
最近の研究では時々父親が母仔と合流してコミュニケーションを取るというのが分かってきましたが、それでも常に一緒にいるわけではありません。
つまり1頭で暮らすかみねのトラは単独生活者であるトラ本来の生活スタイルに準じていると言えます。
だから「寂しい」という感情が彼女にあるのか、私は疑問に感じています。
でもお婿さんがいないと子孫も残せないし一生1頭ってのはなんだかなあ。
確かに、それは私も思います。
実はこれにはちょっと複雑な事情があるのです。
日本の動物園には現在アムールトラ、スマトラトラ、ベンガルトラの3種のトラがいます。 それぞれ野生で住む場所が違うので、その土地で受け継がれてきた遺伝子を持つトラたちです。
アムールとスマトラはほとんどの場合きちんと種名を表記しているのですが
中には「トラ」とだけ表示しているところもあります。
この「トラ」と「ベンガルトラ」の事をベンガル系トラと呼ぶことがあります。
かみねの「さわ」もベンガル系。
なぜ「系」がつくのかというと、ベンガルトラは他の2種のように純粋な血統登録がされておらず
日本の動物園には純粋なベンガルの血(ベンガルトラはインドやネパールの森に住んでいます)を引き継いだ個体がいるという確証が持てないためです。
つまりベンガル系トラというのは多くは雑種のトラのことを指します。
密猟や自然破壊により数を減らしたトラは絶滅危惧種なので、野生から動物園に連れてくることはできません。
動物園同士が協力して繁殖に努めねばならないのですが、日本動物園水族館協会ではベンガル系の雑種を増やすよりもきちんとした血統登録がされているアムールとスマトラの繁殖を推奨しています。
そのため、ベンガル系の繁殖は自重気味となっています。
ちなみによくお客さんから入れてほしいとリクエストがあるホワイトタイガーもいわばベンガル系の雑種トラです。
人間側の都合でベンガル系トラは子孫を残せないとしたらなんだか可哀想な存在。
これに関しては私も「そうですね」としか言うことができません。
しかしトラという生き物の魅力をお客さんに伝え、その背後にある野生の彼らについて知ってもらう事は
ベンガル系であっても十分全うできます。
彼らが心身ともに健康でありながらそのメッセージを最大限まで伸ばして伝えるのが飼育員の役目であり使命だと個人的には考えています。
かみねでは彼女の種名看板はベンガルトラと記しています。
まだまだ彼らの魅力を伝えられていないと感じる今日この頃。
2015年トラについてもっと知ってもらいタイガー、飼育員トラっぷしかけます。
(飼育員 いのうえ)