5月は母の日ということで、かみね動物園にいた偉大なる母について書いてみようと思います。久しぶりに書くブログの話題が、なぜか前担当動物ということはあまりに気にせずに読んでもらえればと思います。
さて、5月13日にカピバラのメス「ハナ」が10歳で亡くなりました。ハナが来園してから10年近く(後半3年くらいは担当ではなくなりましたが)見続けてきましたが、彼女はかみね動物園のカピバラファミリーを築き上げた偉大なる母でした。そんなカピバラの「ハナ」のお話しです。
<カピバラのハナ>
私がかみね動物園に勤めはじめて2年目の2012年にカピバラの担当になったと時を同じくしてかみね動物園にやってきたのがメスの「ハナ」でした。園長と一緒に那須どうぶつ王国までお迎えに行ったのですが、はじめて見たハナは部屋の隅でブルブル震えていて人間に対して全く心を許していないといった印象でした。向こうの担当者からの引継ぎでもオランダの動物園からやってきたが全然馴れてくれないとの話を聞き、大丈夫かなと少し心配しながら帰ったのを覚えています。ちなみにまだ名前がついていなかったので、お花の国オランダから来たということで「ハナ」と命名しました!
<写真を漁っているうちにずいぶん茶色いカピバラだなと驚いたのを思い出しました>
当時動物園には少し前に埼玉県の動物園から来ていたオスの「コタツ」がいましたが、こちらは環境が変わってものんびりマイペースに過ごしていました。このブルっているハナとマイペースなコタツをどうやって一緒にしようかなと考えましたが、とりあえず会わなきゃ相性もなにもわからないということで一緒にしたところ、2頭はぴったりと寄り添ってハナも心なしか仲間ができたことで落ち着いている様子でした。その後はコタツの大らかな性格も安心の材料になったのか、最初は心を許していなかったハナも徐々に人や環境に慣れていきました。
<懐かしの出勤風景!カピバラも人も若いなぁ・・・>
そんなこんなで過ごしていた2013年に待望の赤ちゃんが生まれました!かみね動物園史上初のカピバラの繁殖でした。生まれた時の超貴重映像がこちら!!!
https://www.youtube.com/watch?v=2PVH8T3Y-xg&t=1s
(上のURLかQRコードからご覧いただけます)
カピバラに限らず動物は赤ちゃんを産むと神経質になったり、攻撃的になったりするということは珍しくありません。カピバラも例外ではなく、自身の赤ちゃんを殺したり食べてしまったりする事もあります。ましてや超神経質なハナだったので、母子を刺激しないように慎重に飼育を行っていましたが、心配をよそに初産にも関わらず落ち着いた様子でした。しばらく赤ちゃんは外の展示場には出せないので母子は部屋、父は外というように展示していましたが、ある日ハナにちょっと外を見せたところ子どもを置いたままダッシュで外に飛び出していきました。子どもは任せたと言わんばかりに飛び出していった背中を見送りながら、あの神経質で臆病だったカピバラと同じなのかと驚いたことを覚えています。どっしりと構え、私たちが子どもに触れても特に気にすることもなかったので、体重測定や治療など赤ちゃんのケアができたことはありがたかったです。
<出産直後の写真。手前がハナ> <開脚してしまった赤ちゃんの治療>
そこからは毎年赤ちゃんが産まれ、34頭もの子宝に恵まれました。カピバラの平均出産数は2~4頭と言われていますが、ハナは初産こそ4頭だったものの、2回目の繁殖では6頭を出産し全頭を育て上げたり、2014年には7頭出産という当時の国内最多出産数(調べた限りでは)を記録するなど超多産な母でした!子育てはというと前述のエピソードのように良い意味手抜きをしていました。子どもの遊び相手は父や上の子に任せることが多く、授乳と子供のピンチ以外は自分のペースで過ごしていることが多かったです。だからこそ、これだけ多くの子どもたちを育てられたというのもあると思います。
<そんなことよりも眠いといった感じ> <親子で水遊び>
<母は大人気> <カピバラ団子!左がハナ>
また、赤ちゃんが生まれてからは群れの中で絶対的な存在となり、食事も休息も一番良い場所で取るようになりました。オスのコタツが優しかったということも大いにありますが、群れの中で最強、いや最恐のお母さんでした!母が歩くと道が開ける様はまさにモーセが海を割るといった感じでした(笑)そんな最恐の母も一番下の子どもにはとてもやさしく、兄姉たちにご飯を取られることなく母の近くで安心して食事をとることができたのもすくすく成長できる一因だったと思います。また、ハナ自身も母乳をたくさんの子どもに与えなければならないので、誰よりもエサを必要としていたことは間違いありません。そんな厳しい母でしたが子どもたちからは信頼される存在でした。
晩年は体が衰えて子供たちの方が力が強くなったにも関わらず、亡くなる日まで母と子の関係性は変わりませんでした。あの部屋の隅でブルブル震えていたカピバラが、たくさんの子どもを産み、育て、そして強く、優しい偉大な母になっていく様子を近くで見られたことはとても貴重な経験となりました。私は動物に人間の都合やストーリーを当てはめて話しをすることに少し抵抗がありますが、彼女の偉大さをみなさんにお伝えする最後のチャンスだと思い担当でもありませんががっつり主観で書きました!動物園の動物には一頭一頭に物語があります。それを味わうのもまた動物園のひとつの楽しみ方かもしれません。
(那須まで長距離は怖いからと言って終始園長に運転させていたのを思い出した 中本)
<ありがとうハナ!ゆっくり休んでね。>