3月16日はライオン「きぼう」の7歳の誕生日。
きぼうは2011年3月11日に発生した東日本大震災の5日後に誕生しました。
当園は被災した獣舎の修繕や市民の対応に追われて臨時休園している中での出来事でした。
2頭のメスと共に元気いっぱいうまれてきたきぼうは母ライオンバルミーの深い愛情を受けて元気に成長。可愛らしい姿を皆さんにも見て頂きたいと考えた園長や当時の職員たちは3月下旬の開園に合わせて公開&抱っこ体験をしようと企画しました。
ご覧の通りの大盛況!震災の影響で自宅が壊れたり、水が止まったり、原発事故が発生したりと誰もが不安を抱える中で生まれてきたライオンの子供たちは多くの市民を笑顔にしてくれたようです。
~ようです、と書いたのはライオン担当である私がその頃まだかみね動物園にいなかったから。
地震が発生したとき私は横浜で働いていました。ぐらぐらっと大きな揺れを感じたときとっさに机の下に隠れましたが誰かが「外に出ろ!」と叫んでいるのが聞こえました。
でも揺れが大きくて恐くて体が動かず結局ずっと机の下に隠れていました。
その後、電車通勤の同僚たちは公共交通機関が完全に麻痺して帰れず車通勤の私が近くまで送ることに。
いつもなら20分程度で到着する横浜駅は道路の大混雑で1時間かかり駅周辺は毛布をかぶってうずくまる人やタクシー待ちの行列で騒然としていました。
それから5時間近くかけて自宅に到着。道中お腹が空いて寄ったコンビニにはかろうじてパンが2~3個残っており、後輩と二人でかじりながら車内テレビで見た東北地方の光景は今でも目に焼き付いています。
被害が深刻な地域に比べたら大したこと無いと思います。けれどもこれが私の震災体験です。
3月17日に行ったきぼうの誕生日会には多くのお客様が来てくださいました。
その中には当時きぼうを抱っこしたという方もたくさん!
<箱の中に肉ある?> <カボチャの中の丸鶏を取り出して食べる!>
抱っこなんてとっくにできなくなっているし、時には他のメスを蹴散らして餌を独り占め!なんて様子もありますが、立派な成長ぶりに目を細めて見てくれる方々が大勢いらっしゃいます。
日々の暮らしであの時の記憶は薄れがちですが、多くの方にご支援頂いた感謝の心や体験したことはかみねで働く飼育員としては語り継いでいかなければならない事なので、今年は震災時に復興支援に携わった職員を呼んでガイド中にお話してもらいました。
そして愛情いっぱいに育ったきぼうを更に健康に幸せに過ごせるよう飼育管理してゆくのが私の仕事。
きぼうは現在トレーニングにより無麻酔での採血と体重測定が可能となっています。
私が初めてハズバンダリトレーニングを導入して成功した個体です。
www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/inoue/p045663.html(詳しくはこちらのブログをご覧ください)
今年度は茨城大学、そして先に採血成功していた大牟田市動物園と協力してネコ科動物に必須な栄養素「タウリン」の血液中の量を測定して頂きました。
これにより、給餌内容の改善など動物園という限られた空間でより健康に飼育していくにはどうしたら良いのかという糸口が見えてきました。
詳しくはまたブログで書きますが、これらの成果は協力してくれた各関係者の皆様、そして動物たちのおかげです。
大災害が起こったとき、動物園ができる事は本当に限られています。
それでも1kg程度の赤ちゃんだった「きぼう」は日々成長(今は180kg)して私たちに新たな発見をさせてくれました。
限界を設けず色々な事にチャレンジして進化していける動物園を目指そうと、きぼうの誕生日会で気持ちに喝!を入れました。
きぼう、生まれてきてくれてありがとう。こらからもよろしくお願いします。
※ライオン繋がりで・・・きぼうの母親「バルミー」の闘病生活について当園の獣医あきばがブログを書きました。こちらもぜひご覧ください。
www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/akiba/p066436.html
(飼育員 元ライオン担当いのうえ)