この度、期間限定ではありますが担当動物が変わりました。
私のこれまでの担当はトラ、ライオン、カバなど猛獣や大型獣。
今度は一転してヤギなどの家畜にヤクシカ、そしてキジ・猛禽類。
今回はそんな新しい仲間たちからお送りします。
実は以前より気になっている個体がいました。
こども園にいるロバのオス。名前は「チョム」といいます。
平成14年に仙台からかみね動物園にやってきました。詳細な記録が残っていないのですが推定年齢20歳。
ロバの飼育下の寿命が30年ほどなのでまだまだこれから、という年でしょうか。
彼とお客さんの間には少し距離があります。
これはなぜなのでしょう。このパイプがなければチョムはもっと広く展示場を使えるしお客さんだってもっと近くで見られるのに。
そこで色んな職員に聞いてみたところ・・・
「チョムは噛み癖があるから」
「前にロバのメスを噛んで死なせた。お客さんにも怪我をさせるかも」
「掃除に入ると噛むから怖い」
という話がほとんどでした。
あのパイプはどうやらお客さんを噛ませないようにする防止策のようです。
噛む噛む言われてどきどきしながら獣舎に入りましたが、実際に私が接した彼は穏やかで懐っこい印象を持ちました。
確かに顔をこちらに向けて噛むのかな?という素振りは見せましたが、本気で噛むつもりはないようです。
私は何度か舐められました。
試しに触ってみましたが嫌がる様子もありませんでした。
彼からしたら私は新人。まずは仲良くなろう!という事で、ポニー担当がよく行っている体毛のお手入れをしてあげることにしました。
ブラシを体の毛並みに沿ってといてあげます。こうすることで汚れやふけを落とすことができるので体を清潔に保つことができます。
ブラシがけが終わるまでじっとしていてくれたらおやつをあげます。
おやつも仲良くなるためのアイテムです。
<顔をぷいっ>
途中で私から離れたらブラシがけは中止。動物が嫌がることは無理矢理しません。
担当が変わったばかりの現在はこれを繰り返し中。
また、手綱を付けるための「無口(むくち)」をつける練習も現在しています。
顔に装着できるのはもう少し先になりそうですが、無口に対する警戒心は無くなりました。
これを付けることができれば今後蹄のお手入れをしたり、園内を散歩する練習もできます。チョムにできること、チョム「が」できることの幅を少しでも広げてあげるのが飼育員である私の課題です。
さて、ここまで書いても彼の悪いところが見当たらないのですが、なぜ「噛み癖のあるロバ」と言われているのでしょうか。
過去に確かに彼は同居している雌ロバを傷つけたり飼育員に噛み付いたりしたのですがその時の場面や状況を詳しく答えられる職員がいないのでよく分かっていません。
しかし「噛む」という行為をしたのは事実なので結果お客さんから遠ざけられ、職員からも問題児というレッテルを貼られ、お世辞にも広いとは言えない展示場で今まで1頭離れて暮らしてきました。
噛む行為を問題視したのは私たち飼育員です。しかしここで考えなければならないのはなぜ噛んだのかということ。喋れない動物は気持ちや考えを行動で表します。
その時の状況や場面をきちんと分析して彼がなぜその行動をしたのか、今後どうすれば良いか、対策後の結果、動物への影響、お客さんの反応、などあらゆる事を考えなければならないのにこの行動は動物側に問題があると見なし皆で今まで遠ざけてきました。
チョムには申し訳ないことをしたと思います。
動物に対して「あの個体はああいう性格だから」という方もいます。
彼らにも私たち人間と同じく個性はありますが、その個体に合った飼育管理やコミュニケーションの取り方が必ずあるのです。
人にも動物にも優しい飼育員にならなければ、と担当が変わった今改めて思うのでした。
(飼育員 食べ過ぎが問題行動いのうえ)