先日嬉しい光景を見る事ができました。

<2頭で仲良くあさごはん!>
カバのバシャンが約6か月振りに外に出たのです!
久しぶりの母仔展示。お互い寄り添うようにプールで寝ています。
外に出た!と書きましたが、彼女は出たがらなかったわけではなく「出せない」状態だったので担当者と獣医で長期に渡る「室内展示」をやむなく判断しました。
その理由についてはこちらをご覧ください。
www.city.hitachi.lg.jp/zoo/003/p051837.html(新しいウインドウが開きます)

バシャンは毎年冬場に体調を崩すことが多いのですが、今回は私が担当になってから最も辛そうでした。
体にワセリンを塗るも、新たなあかぎれ箇所が増え状態はひどくなる一方。
春になって気温が上がれば代謝も良くなり回復するかなと思っていたのですが一向にその気配は無し。陸に上がるのも億劫らしく日中のほとんどを水中で過ごす日々。
獣医と一緒に彼女に何をしたら良いのか考えました。

まず、プールから上がるのが辛そうなのでこれをなんとかしてあげたいと思いました。
階段を上がる際、足を出したり引っ込めたり躊躇する様子が見られたのできっと痛むのでしょう。推定1.5tの体重を支える足にはかなりの負担がかかっているはずです。
段差をスロープにしてあげたかったのですが、自分たちではできず業者を呼ぶにも時間と費用がかかるのですぐに行うことができません。
そこでオーバーフローを塞いでプールの水かさを上げました。
こうする事で浮力を使って少しでも階段を上りやすくする作戦です。

この作戦は彼女のニーズに合っていた様子。以前に比べてぐっと階段を上がる時間が短くなりました。
上手に浮力を使って昇れるようです。

<背中から腹にかけて> <おしり>
次に見た目に痛々しい皮膚の治療です。
早急に治すことが重要と判断して外用薬を塗る事にしました。
しかし皆さんご存知の通りカバは水中で暮らす生き物。
ただ塗っただけでは流れ落ちてしまい効果が薄れてしまいます。
ヒトのあかぎれは薬を塗った上に手袋などをして防ぐことができるのですがカバの場合は?
悩んでいたら、その時相談にのって頂いた大学の先生から「ワセリンを上から塗ってみては」とアドバイスを頂きました。
確かに、ワセリンは簡単に水で落ちる事は無く薬の上から塗れば水落を防ぎそう。
そこで外用薬を塗った上にワセリンを塗る2重塗布を始めました。
幸い食欲は旺盛で、初めは体にベタベタ薬を塗られることを嫌がっていたバシャンも大好きなペレットを食べている間はそれを許してくれるため改善を信じて塗り続けました。
大きな体全体に傷が広がっているため、薬はすぐに無くなります。
獣医さんが追加でいくつも購入してくれました。
<BEFORE> <AFTER>

ビフォーアフター!
傷が塞がり元の皮膚に戻りつつあります。
気温が上がり湿度が高くなったことも関係していると思いますが、最も傷がひどかったお尻の部分はほとんど傷が分からない状態に。
アドバイス頂いた先生にはもちろん、塗っている間動かないでいてくれたバシャンにも感謝です。

カバは元々群れで過ごす動物。
野生下では互いにコミュニケーションを取り、寄り添う姿がよく見られます。
バシャンを長期室内展示にした時、娘のチャポンと離れ1頭で過ごす時間が多くなりました。
そこで担当者がチャポンの替わり・・・になるのは無理ですが、少しでも時間が空いたら声をかけたり簡単なトレーニングでコミュニケーションを取るようにしました。
白い部分にタッチしたらおやつをあげるよ~という遊びです。
のんびりと担当者も楽しみながらやっています。

現在国内最高齢の53歳で本やテレビの取材を受ける事も度々あります。
正直に言うと年をとり重い体を必死で支えて生きるバシャンを見て、人の都合で長生き「させる」ことに疑問を感じないと言えば嘘になります。
今までやってきた事も探り探りなので全てが正しかったとは思えません。
しかし、20年以上連れ添っている娘と一緒に眠ったり力強く口を開けてエサをねだる姿を見ていると少しでも彼女が楽しく幸せに過ごせる環境を作ってやらなければ、という気持ちになります。
最期を迎える時にこの動物園で過ごして良かった、と思ってもらいたいです。
これも人のエゴかもしれませんが。。。

よく「目指せ60歳!」と言われるのですが、そんな先の事分かりません。
「明日を今日よりも少し良く」がモットーです。
バシャンは様子を見ながら外に出したり室内で展示したりしています。
お客様から「息してますか?」と聞かれることもありますが、安心してください。息してます。
のんびりぷかぷか浮かぶバシャンに是非会いに来てくださいね。
※この場を借りて色々とアドバイス頂いた慶応大学橋本先生、いしかわ動物園の方々、そして職場の皆様に御礼申し上げます。これからも相談にのって頂くことがあるかと思いますがよろしくお願いいたします。
(飼育員 カバ担当4年目いのうえ)