書こう書こうと思いながらすっかり年末になってしまいましたが、6月11日に生まれたカピバラのその後についてお伝えしたいと思います。遅くなりまして申し訳ございません・・・。
以前お伝えしたとおり6つ子のうちのオス3頭は那須どうぶつ王国にお引越ししました。
残ったメス2頭とオス1頭についてお知らせします!
なんで引越しちゃうのと思った方はこちらをどうぞ↓
http://www.city.hitachi.lg.jp/zoo/blog/staff/nakamoto/blog201412.html
メス2頭は10月28日に群馬県にある桐生が岡動物園にお引越ししました。
<いってらっしゃい> <新居に到着>
桐生市と日立市は親善都市の関係を結んでいて、キリンの「キリナ」をブリーディングローンでお借りしていたりと以前から親交が深く、今回は親善都市提携50周年を記念して行われました!
彼女達は向こうでの暮らしにもすっかり慣れ、早速公募で「まゆ」と「きぬ」という素敵なお名前をつけてもらったようです。
詳しくは↓
http://www.city.kiryu.gunma.jp/web/home.nsf/39f1c87d0d44690349256b000025811d/d89f248d7eed0afe49257f02003d1a9b?OpenDocument
2頭が親善大使(自称です)として大いに活躍してくれることを願っています。
カピバラと交換で桐生市からはホロホロチョウがやってきました。
<ホロホロチョウです!>
さて、残ったオスの1頭ですがこちらは当園で展示中です。
この1頭を巡って様々な苦難がありましたので、そのお話をしたいと思います。
と、その前に桐生市で名前をつけてもらう都合上残った彼にも名前がついていなかったので、担当者の独断と偏見で「おにぎり」という名前をつけましたことをご報告します。
<おにぎりです!ヨロシク!>
そもそもカピバラはおっとりしていてやさしそうなイメージがありますが、実はそうでもありません。人に対しては優しい動物なのですが、カピバラ同士では激しいバトルをして頻繁に傷を作っています。性格も様々で、気の強いのもいれば臆病なのもいます。そんな個性豊かな面々が小競り合いを繰り返し、微妙なバランスを取りながら群れを作っています。
現在当園では繁殖をコントロールするために母親と娘のメス群れと父親と息子のオス群れに分けて飼育しています。
メス2頭を桐生に搬出したタイミングで、おにぎりをオスの群れに入れることにしました。現在オス群れには父親の「コタツ」と昨年秋に生まれた兄弟の「おもち」と「おはぎ」の計3頭がいます。ここですんなり入れれば良かったのですが、当然そうは行きません。
<おもちとおはぎ> <オスのグラウンドで寝るコタツ>
コタツは無関心だったのですが、おもちとおはぎは誰なんだろうと近寄っていきました。ここまでは、想定の範囲内だったのですが、ここから予期せぬことが起こったのです!
おにぎりがおもちとおはぎに攻撃を加えたのです。
え!逆でしょ!?
おもちとおはぎは一瞬怯みましたが、すぐさま反撃しおにぎりを激しく追いかけました。追われたおにぎりはすっかり意気消沈し、隅のほうでブルブル震えていました。自業自得だろうと思いながらも、怪我をされても嫌なのでその日はおにぎりをメス群れに戻しました。
そこから苦難の日々が始まったのです。
カピバラに限らず動物の子供はよく追いかけっこをして遊びます。誰かが急な動きをするとテンションが上がってみんなで大はしゃぎです。まだ幼さが残る兄弟は逃げるおにぎりの動きに反応し、遊び半分でさらに追いかける、追われるから怯えて逃げる、逃げるから追う・・・の負のスパイラルが生まれてしまいました。おにぎりが常におどおどしているので、友好ムードになる気配はまったくありませんでした。
さてどうしたものかと、今度は一頭ずつ合わせてみることにしました。また、できる限りおにぎりが落ち着けるように、普段はメス群れが使っている寝室でお見合いをさせてみました。おはぎとのお見合いは最初こそお互いよそよそしかったものの、次第に距離が縮まって最後は二頭でくっつくまでになりました。おはぎが慣れない場所につれてこられて心細くなったところに、おにぎりという相棒を見つけたといったところでしょうか。
しめしめと今度は同じ方法でおもちとのお見合いを試みましたが、こちらは相変わらず追い掛け回したり、一向に距離が縮まりませんでした。
う~ん。どうしたものかなと悩みました。おはぎが仲良くしているのを見れば落ち着くかなと兄弟一緒に合わせてみましたが、全くだめでおはぎも一緒になって追いかけるしまつでした。
よし今度は父親だ!ということで、コタツとおはぎとおにぎりを一緒にしてみました。落ち着いているとまではいかないものの、大きなトラブルは起きなかったのでこのまま様子を見ることにしました。
<コタツ おはぎ おにぎり> <コタツとおにぎり>
問題のおもちは一時的にメス群れに入れることにしました。そこで転機が訪れたのです。ある日おもちがメスたちから攻撃を受けたのです。メス6頭の集中攻撃にかなり意気消沈のおもち。多少の傷もあったので、おもちをオス群れに戻しました。
すると意気消沈したおもちはおにぎりを追いかけることなく、隅でおとなしくしていました。なんだこれはと驚きながらも数日観察を続けましたが、その後もおにぎりに攻撃を加えることなく、オスの群れは次第に落ち着いていったのでした。
めでたしめでたし。
<おはぎ・コタツ・おにぎり・おもち>
今回の一件は、おにぎりが自分の立場を考えずに攻撃したことから始まりました。ではなんでこんなことになってしまったのでしょうか。
私が考えた結果はこうです。カピバラの母親は気が強く他の個体に対しては攻撃的ですが、赤ちゃんに対して非常に寛容です。そのため赤ちゃんは母親のそばで我が物顔で餌を食べることができます。これまでの仔は半年もすると次の赤ちゃんが生まれていたため、母親に一人前とみなされ追い払われていましたが、今回は次がいませんでした。ずっと我が物顔で餌を食べていたおにぎりは甘やかされたスーパーおぼっちゃまになっていたのです。
授乳もこれまでですと2~3ヶ月ほどで終わっていたのですが、今回は5ヶ月近く与えるなど様々なところでいつもと違う様子が見られました。
<母ハナとおにぎり>
最初におはぎやおもちに攻撃したのも、世間知らずゆえの行動だったのでしょう。
人間同様、動物の社会もいろいろあるんだなぁと感心させられる出来事でした。
おもちには少々悪いことをしてしまいましたが、彼も若干調子に乗っていた部分があるのでこれで少し落ち着いてくれることでしょう。
また、動物の社会は単純ではありません。同じ種類でも仲間入りやカップリングなどは非常に神経を使います。動物種に合った、そして個体に合った飼育方法を考えることが大切なのです。
そんなドラマを生んだおにぎりですが、現在は夜は母親のいるメス群れ、昼は父親のいるオス群れに入れています。
今後はメス群れオス群れを行き来させて、暖かくなったころに完全にオス群れに合流させる予定です。
まだまだ波乱万丈ありそうですが、今後も彼の成長を暖かく見守っていただければと思います。
雑草育ちの飼育員 中本
<おもちとおにぎり こんな日が来るとは>