「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 」と宮沢賢治の有名な詩にありますが、動物園はいずれの日も客足が遠のいてしまいます。水族館がうらやましい・・・。
そんなボヤキはさておき、今年の夏はとにかく暑い!(というか暑かった。ブログを書き始めたら涼しくなってしまいました・・・。)それは人間にとっても動物にとっても同じことです。先日フェイスブックで、レッサーパンダだけは冷房を使っています、と投稿したところ「他の動物たちの部屋に冷房をつけた方が良いのでは」というコメントをいただきましたので、そのことについてブログを書いてみたいと思います。(日立市の決まりで基本的にフェイスブック、ツイッターで皆様に返事をすることはできませんのでご理解ください。)

まずアンサーですが、動物たちに冷房が必要かと言われると、基本的には必要ありません。もちろんあるに越したことはありませんが、なくても大丈夫です。ただし、レッサーパンダや南極圏に生息するペンギン(当園にはいませんが)のように、高山地帯や寒冷地帯など年中寒い地域に生息する動物には必要になります。また、暑さに強くても高齢の動物には配慮が必要です。(ちなみに寒さが苦手な動物が多いので、暖房はほとんどの獣舎についています)
<国内最高齢カバ「バシャン」 冷房なんて必要ないわよ!>
冷房なしでも大丈夫という根拠として、動物には環境適応能力があります。生息している場所と気候や食べ物が異なっていても、その環境に合わせることができるのです。
以前、長野の某動物園を訪れた際、真冬にコンゴウインコが暖房なしで屋外にいるのを見て愕然としました。熱帯に生息するコンゴウインコには暖房が絶対に必要だと信じていたので、改めて動物の適応能力に驚かされました。
さらに言えば猛暑や干ばつなど、自然界はもっともっと過酷です。動物たちは文句ひとつ言わず(言っているかもしれませんが)耐え、そして工夫をしながら生き抜いているのです。
動物園の動物たちも暑いときは自分で対策をとっています。そこで、かみね動物園で見られる動物たちの暑さへの工夫をご紹介したいと思います。
まずは、日陰で涼みます!日陰に入るなんて当たり前ですが、これも立派な暑さ対策です。また、展示場によっては日陰が少ない場所もあります。そういった場所は寒冷紗を使ったり、植樹をして飼育員が日陰をつくります。植樹の方が見た目も良いのですが、地面がコンクリートであったりすると植えられませんし、根付かせるにも技術が必要です。さらには動物が登る、食べる、折る、爪を研ぐなど様々な攻撃を加えてくるので、それらを乗り越えなければなりません。

<ライオンとカワウソには寒冷紗を設置しました>

<カピバラとカンガルー!苦節4年ここまで大きくなりました!>
次は水浴びです!人間も夏はプールや海に行くように、動物たちも水を使って暑さをしのぎます。
今年は暑さのせいか、動物たちがこれまで見たことのない行動を見せてくれています!

<サイの水浴び> <アライグマ>

<激写!アナグマって泳ぐんですよ!> <えっ、ヤマアラシって水に入るの!?>
最後に穴掘りです。
ヤマアラシのメスは巨大な穴を掘って、その中で涼んでいます。姿がかろうじて見えるくらいのとても大きな穴です。ただし、土の展示場なので掘り進むと逃げられる可能性があるので埋めています。そんなことにはめげずに毎日せっせと掘っています。暑さが彼女を突き動かしているのでしょう。日陰でじっとしていた方がよっぽど涼しいと思うのは私だけでしょうか。そのおかげで、全国屈指のマッチョなヤマアラシに成長しています!

<一心不乱に掘る> <展示場に空いた巨大な穴>

<ん!?何か見えるぞ!> <お尻と後ろ肢が見えました!>
番外編
この暑さの中、日光浴をしているつわものがいます!それはオグロプレーリードッグです!暑さと乾燥に強く、こんなに暑くても飲み水は必要ありません!食べ物の水分だけで大丈夫なのですから恐れ入ります!

<わざわざ日向で休みます・・・。信じられませんね。>
動物たちにとって炎天下よりも、エアコンが効いた部屋のほうが良いのかもしれません。感情的には「動物も暑くてかわいそう」となりますが、安易に冷房を使うことには疑問があります。人間もそうですが、冷房に体が慣れてしまうと暑さに対して弱い体になってしまいう危険性があります。
動物たちは過酷な環境の中を生き抜いています。さらに、天敵がいたり、食べ物が手に入らなかったり、様々なストレスがあり、それは「刺激」ともいえます。そんな刺激の中で、子孫を残すためには日々たくましく生きているのです。
動物園は野生に比べて刺激が少ないです。だからこそ、快適な空間を用意するよりも、暑さという刺激から動物たちが、日陰に入る、水に入る、穴を掘ると自分たちで選択できる状況を用意してあげることが飼育員の勤めだと思っています。もちろん健康に支障が出ないようにすることは大前提です。また、そうやってたくましく生きている「ホンモノ」を皆様にご覧頂きたいという想いもあります。彼らは私たち飼育員でも見たことのない動きを見せてくれます。本では知っていても、目の前で見ることができたときは本当に感動します。
ぜひみなさまも「熱い動物園」をお楽しみください!
<嬉しいお手紙が届きました!>
ホットな飼育員 中本