役所内で年一回行われる健康診断ではじつに様々な方法で自分の体の状態を知る事ができます。
体重測定、視力・聴力検査、レントゲン検査、尿検査、血液検査・・・
これらは動物にも言える事で彼らにも様々な方法をもちいて、飼育員や獣医は健康状態を把握します。
では、「猛獣」と呼ばれるトラやライオンはどのように健康診断したらよいのでしょうか?
これまでかみね動物園では全身麻酔をかけて眠らせ、採血、体温測定、体重測定、触診などを行ってきました。
ところがこれらはできても1~2年に1回程度。
直接話をすることができない彼らの健康状態を把握するには普段からの観察が重要になってきます。けれど何かおかしいと思ってもそれを調べるためにすぐ全身麻酔を・・・!というのはためらわれます。
なぜかと言うと体中に麻酔薬を巡らせて眠らせるというのは彼らの体にとても負担がかかる事だからです。場合によっては亡くなってしまう麻酔事故のリスクも考えられます。
そこで現在かみね動物園では採血トレーニングを行っています。
まずは台に乗ってもらって・・・
伏せてもらいます。
そして四角い穴から尾を出してもらいます。ライオンは自ら尾を出してくれます。
尾を触っているのは獣医さん。血管を探しています。
そして針を刺します。「はーい、ちくっとしますよ~」
ライオンは現在ここまでのトレーニング。
この「ちくっとする刺激」に対してじっとしてくれていたら、ご褒美に肉を与えています。
現在彼は尾を出すまでの行動を全て自ら進んで行ってくれます。
トラは少し飽きっぽいところがあるので、彼女の様子を見ながらトレーニングを進めます。
フックで尾を引き出してライオンと同じように針を刺して・・・。
尾の血管はトラの方が分かりやすいです。
4月よりトレーニングを行ってきてようやく8月11日と12日に採血が成功しました。
まだ飼育員も獣医も動物も試行錯誤しながらやっているので百発百中で採れるわけではないのですが、トレーニングを続けながらこの方法を確立させていこうと思っています。
動物が自ら進んで行動を起こしてそれに対してご褒美をあげる。これはハズバンダリトレーニングといって、イヌやネコの躾など他の動物でも応用されている方法です。
猛獣はこれができたことにより定期的な血液検査というのが可能になります。
1か月に1回程度行えばホルモンの周期変化や各数値の上昇・下降など彼らの健康状態をより詳しく把握するうえで重要な手掛かりになるでしょう。
また、これまでは麻酔銃を見るだけで怒ったり逃げたりさせていたのですが、動物が自ら進んで行ってくれるので身体だけでなく彼らの精神面にも負担をかけずに済みます。
今後は採血のほか、体重測定や爪きり、口開けなどのトレーニングを行っていきます。
不定期でやっておりますので見かけたらそっと見守ってください(トレーニング中はあまりお話ができないので・・・。終わった後ならいくらでもお話できます!)。
(飼育員 いのうえ)