すっかり過ぎ去ってしまった昨年のお話。
この場を借りて、ライオン♀バルミーの闘病生活をご報告いたします。
できそこない獣医師の私に、私が一番イライラしますが(笑)、バルミーの頑張りに免じて、お付き合いください。
昨年の夏のこと・・・
「バルミーがご飯食べなくて、元気がないんです…」という飼育員さんからのお話がありました。
「んー、夏バテかな?こんな時期に毛球症(※)かな?」と内心思いながら、様子を見に行くと、
※なめとった毛玉がおなかの中で塊になって、つまってしまう病気です。処置しないと死んでしまうような病気でもあるんです。ライオンはネコと同じく、この病気の発生が多い(季節の変わり目=ライオンの毛の生え変わりの季節=5月頃と11月頃!)動物なんです。
動いてはいるけど、確かになんだか覇気がない・・・残すエサの量も多いということで、
対症療法的に投薬開始。
でも、残念ながらよくなりませんでした・・・
そこで、しっかり検査をするために、全身麻酔をかけることに!
毛球症をはじめとする消化器疾患を想像していた私。
レントゲンを実施すると、胃の中に異物が!!!!
「悪さをしているのはこれだ!!!!どんぴしゃじゃん!!!!????」
と考えました。
血液検査でも特に異常もなかったので、やっぱこいつだな~
となると、これをとらなきゃいけない・・・つまり、胃を切る手術が必要でした。
簡単に言ってますが、バルミーの体重は当時約110kg。
園内の設備や医療器具、人手を見渡して…「はーい、お腹開きますね~」という気軽な感じでは手術できませんでした。
じゃー、手術にうつる前に、できることは・・・?
お薬で異物をだすこと!!!ということで、いろいろとお肉に混ぜて投薬。
でもやっぱり、本調子には戻らない・・・
園内で作戦会議(1)を実施。
実は、レントゲンって、骨の評価が得意な検査で、内臓を見るならエコー検査のほうが優秀な検査なんです。
でも、かみね動物園にはエコーの機械はありません。
そこで、近くの動物病院さんにお願いしたところ・・・OK!!!
麻酔をかけて検査を行い、本当に胃や腸の中に異物があるのかないのか、一緒に評価してくれることになりました。
念のため、レントゲンも再度実施したら…
異物がない?流れた?体位の問題?
胃の中はからっぽでした。
エコー検査の結果。
んー、やっぱ消化管内には異常ない。あれ?子宮がちょっとおかしいな・・・なんか液が溜まってる?
という所見がみられたため、「あれま、消化管じゃないのかな?」と、ここで方向転換開始。
年齢的にも、妊娠していない期間的にも・・・子宮疾患かも?!
さらに、確定させたい!ということで、園内で作戦会議(2)を実施。
胃の中に本当に、本当に、ほんとーーーーに、なにもないのか?!ということを確認しようということに。
今度は内視鏡検査を実施してみよう!でも・・・かみね動物園には内視鏡の機械はありません。
そこで、近くの水族館さんにお願いしたところ・・・OK!!!
結果、胃の中にはなにもなく、心配していた胃炎や胃潰瘍もありませんでした。
このときの血液検査で白血球が増加していて、発熱もありました。
ここでやっと、細菌感染がある状態、かつ子宮疾患を疑い、さらに陰部に膿が付着しているのを見つけたこともあり…
「これ、子宮蓄膿症※じゃねーの?!!!!!」
(子宮の中に膿がたまってしまう病気。子宮破裂による腹膜炎や、敗血症などがおこり、治療しなければ死に至る病気です。)
「え、結局、お腹開けなきゃいけないの?」(えー、やだやだと内心思う私。)
子宮蓄膿症の治療は、基本的に卵巣子宮全摘出術です。
ホルモン剤や抗生剤を使う治療(下記に詳細あり)もありますが、再発することが多いのです…
とりあえず、このまま手術はできない。とにかく抗生剤を飲ませて、状態をよくなることを願おう!その間に戦いの準備をすることにしました。
食欲があるときをみはからないながら、抗生剤を投薬。よく食べてくれました。
本当に、バルミーに感謝しかありません。
薬が入る量が増えるたびに、症状はよくなっていき、
なんと!!!体調を崩す前の、元通りのバルミーの状態に!
めでたし、めでたし。ここで治療終了~
としたいところですが、残念ながら子宮がある限り、再発リスクが高い病気なんですね。
抗生剤を飲ませている間に、病気について調べ、いろんな獣医さんに聞き込みもしました。
教科書、文献、近くの動物病院さん、大学の同級生、動物園関係の獣医師など・・・
ホルモン剤を使った治療法も実施されていることがわかりましたが、
*PGF2α・・・私は、子宮破裂の副作用が怖くてやめました(破裂は起こらない、猫だと必要量が多いなど諸説あるようです)。
*アリジン・・・お値段が高く、数回の治療をしても再発することもあるという話をきいてやめました(これも諸説あり。一回の使用で治った経験のある先生もいるそうです)。
いろいろ聞いた&考えた結果、やっぱ根治するには、手術!!
バルミーは10歳。ライオンは約20年生きると言われているので、まだ半分あるし・・・
過去の剖検記録を見ると、かみね動物園で、子宮蓄膿症による子宮破裂で死亡してしまった個体もいたようでした。
私は、「同じことは繰り返したくない。バルミーを助けたい!」の一心でしたが、課題は山積み…
人手、器具、機械、技術、薬・・・
ネコの手術ならともかく、ライオンで同じ手術をしたことがなかった、かみね獣医~ズ。
わからないことが多くて、不安も多くて、でもやらなくては助けられない…
なんとかならんかね~?と奮闘した日々は、Part2に続く。
(結局まわりに甘えてばかりの 獣医師・あきば)