先日、NHK・Eテレ「ウチのどうぶつえん」という番組で「ウチの」チンパンジーたちが紹介されました。この番組は各地の動物園で話題となってる動物に焦点をあてて紹介する比較的低年齢向けの番組らしいのですが、今回当園に話があった際は、当該個体の特徴、いわゆるカワイイやかっこいいといった情感的なことや、優れた身体能力などの表面的なことではなくその動物の歩んできた過去にもスポットを当てながら今の状況を紹介したい、というものでした。
現在8頭が暮らす当園のチンパンジーたちは当然ながらそれぞれに過去を背負っています。その中には、動物福祉が声高に叫ばれる今では考えられないような過去も抱え込んでいます。当園でも以前はチンパンジーのショーをやっていましたが、2008年に来園したマツコも水族館でイルカに乗るショーをやっていました。その後動物園を転々とし結局群れには入れませんでした。ゴヒチは動物実験のため研究機関の檻の中だけで暮らしていました。人工保育のイチゴも群れになじめず1頭だけで過ごしていました。そんなチンパンジーたちを終の棲家として当園で預かることとなったのですが、今回の話を頂いた当初、その担当者はそうした暗い過去を持つ当園の事情を知ったうえであえて依頼をしてきました。しかし過去を消すことはできません。むしろそうした歴史の上に今の動物福祉も成り立ってきたということを一般の方に伝える格好の機会です。私は躊躇なく協力できる意思を伝え、番組作りはスタートしました。
担当のディレクターさんはとても熱心な方で、昔の写真や動画などの資料を検証したいという事でしたが、当園では過去の写真などは整理されておらず、ネガフィルムも含めてひとまとめでお渡ししたので整理するだけでかなりの時間がかかったのではないでしょうか。また、以前飼育されていた関係機関などにも取材されたようですが、当時の話を知る人はいなかったりと、こちらも相当苦労されたと思います。そんな裏付け作業の傍ら、当園にも4日間滞在しチンパンジーの様子などを観察・撮影されていかれました。こうした力の入った作業姿勢に私たちも共感し、できる限りの協力体制をとりました。
その結果、放送された約30分にわたる内容は私たちとしても十分納得のいくものに仕上がっていました。様々な過去を持つチンパンジーたち。結果として、ゴヒチはリーダーとしてこの群れをまとめ上げ(現在のリーダーはユウ)、マツコは当時国内最高齢の初産記録で繁殖に成功し、イチゴも昨年初の出産という明るい話題につながりました。普通なら番組の構成上はまさにメデタシめでたし。しかし今のチンパンジーの森が平和的に機能しているのはあくまでチンパンジーたちの自助作用とそれを可能にした飼育員や環境面のサポートによるもので、私たちとしては特にサクセスストーリー的に仕上げられるのは求めていませんでした。番組も低年齢向けに作られたことが幸いしたのか、淡々とした番組進行がかえって美談仕立てにならず良かったと思っています(担当ディレクターさんはもう少し突っ込みたかったそうですが=笑)。
動物園に来るお客様は大体順路通りに動物を見て回り、それで終わってしまいます。もちろんそれはそれでいいのですが、私たちは色んなことを伝えたいと思っていてそのために解説板やイベントなどで動物のことやそれを取り巻く環境などを伝えています。しかしなかなか限界もありやはり今回のようなメディアが取り上げてくれるのは大変ありがたいことです。番組によってはかわいらしさや興味本位など、単に面白おかしく扱われ、結構忸怩たる思いの時もありますが、今回のような真摯で熱のこもった取材と放送内容は私たちの思いを後押ししてくれたと思います。番組制作は結構大変な作業でしょうが、取材する側と受ける側の方向性を一つにして力を合わせれば、いいものができるのだなと感じたところです。
SNSなどでも番組を見ての好印象メッセージなどが届けられていますので、見逃した方はぜひNHK+やオンデマンドなどから探してみて下さい。
※「ウチのどうぶつえん」はNHK・Eテレで4/29午後7:25~7:55に放送されました。
(園長 生江信孝)